山の秋

私が見た秋の手前の月
私が見た秋の手前の月

季節の変わり目だ。急な気候の変化に体調を崩してしまった人も多いだろう。私もなんとなく内臓の調子がいまひとつ。

しかし私は、季節の変わり目が嫌いではない。慣れきった空気の中に混じる、新しい季節の違和感にハッとさせられるとき、心がざわつく感覚がいい。季節がぐるりと動こうとする、その瞬間をつかまえたような気分になる。

 

先週、三瀬の山奥に窯を構える「皿屋」の川本太郎さんを訪ねた。日中なのに気温は18度。ふもとより5度以上も低く、縁側で話していると寒さに身体が震えた。いっきに寒くなったと、川本さんはいつものボソボソした声で話してくれた。「今年の夏はとっても暑かった。こんな年の冬は大雪になる」と。

 

帰り際、川本さんは、裏山にはえていたムベの蔓を土産にとってくれた。実は青いけれど、形は秋そのもの。ススキが日の光を受けて輝き、こぼれんばかりの萩が風に揺れ、アザミがワシワシと葉を茂らせて立っている。「皿屋」窯はすでに秋に包まれていた。

 

川本さんが焼く器に「山茶碗」がある。見込みが浅く、すっと立ち上がって、ぐらりと流れる、なんとも素直な形をした碗で、私は大好き。この日、数枚を仕入れた。川本さんがくれたムベの実と山茶碗は、今、手の間にささやかな秋を連れてきてくれている。