鮑三昧と海の朝食に大満足。

この海を眺めながら朝食をいただいた。
この海を眺めながら朝食をいただいた。

 来年の春、東京へ戻っていく友人の送別旅行をすることになり、食事の美味しい宿へ行こうということになった。選んだのは、壱岐にある「海里村上」。食材に恵まれた壱岐の本領発揮と評判の宿で、いつか訪ねてみたいと思っていた。部屋の造りやお風呂、談話室など、設備は清潔で居心地良く、何より旅館にありがちな過剰なサービスはなく、スタッフの程よく距離をおいた対応が、くつろげる。

 

 夕食は、「このわた・砂ずり醤油漬け、鮑肝塩辛・玉子味噌漬け」の前菜に始まったものだからシャンパンを開け、エスニックな香草がきいたタレにつけて食べる「車エビの酒蒸し」で白ワインに進み、「鮑のしゃぶしゃぶ」で赤ワインを空けた。素材も彩りも盛りつけも申し分なく、ワインの品揃えもかなりのもの。我々は、メニューにないケーキまで無理矢理テーブルに運ばせ、遅くまでレストランを占拠し、結局、旅先でもいつものワガママオバチャンぶりを発揮。

 

 翌朝は、ちょっとしたサプライズだった。青い鏡のように凪いだ海を眺めながら食事が出来るカウンター席へ。自家製の海苔の佃煮もカマスの干物もジュースも何もかもが美味しかった。なかでも心憎い演出が、魚市場で競り落としたばかりという(ホテルに仲買の免許があるらしい)ヒラマサを3切れ、アオリイカの短冊をほんの一盛り、そして目の前で揚げてくれる天ぷらが鮑2切れ、イカゲソ2切れという具合に、海の旅館らしいメニューをお腹いっぱいではなく、心いっぱいになるように出してくる、その計算ぶりの正確さ。海ものづくしなのにどの皿を食べても飽きが来ず、朝からビールを飲みたい気分になった。

 

 しんみりするはずの送別旅行も、一皿一皿に歓声をあげている間に終わってしまった。ひたすら食べて飲んだ以外、特別な思い出は何も生まれなかったけれど、東京に帰った友人が「九州って、魚が美味しいところだったなぁ」と、ふと思い出してくれることがあれば、それで充分なのかなとも思う。仕事漬けの四十路女3人旅、色気のない話ではある。