この1年

今年一番の思い出は、直島に行ったことかな。
今年一番の思い出は、直島に行ったことかな。

今週から私も本格的な忘年会シーズンを迎えた。いつもの飲み会と少しだけ違うのは、会話の中に「今年はどんな1年でしたか?」というフレーズが加わること。そして別れ際、「よいお年を!」という挨拶が交わされることだ(これは気が早すぎて、年内に気まずい思いをする場合もあるが)。

 

この1年間で3カ所の手術をした私にとって、今年は病気と付き合った1年だった。しかし、いずれもたいしたことはない。私の回りでは今年、重い病に倒れた友人、知人、親戚が増えた。医療ミスも目の当たりにしたし、永久の別れもあった。命はある日いきなり尽きてしまうのだと、改めて思い知った。いや、尽きずとも、風前の灯火のごとく弱々しい命では、生きることの意味が誰のためにあるのか、私には判じかねる場面もあった。

 

そんな折、叔母が放射線治療を始めた。叔母といっても私とは歳も近く、姉のような存在。明るくて愛らしい“娘さん"という印象が、いつまでも変わらない人だ。けれど、放射線治療が始まって2週間。見舞う度に、叔母はだんだん小さくなっていく。言葉が途切れるのが気まずくて、あれこれ話しかける私に静かに頷いていた叔母が「薬を塗ってほしい」と、おもむろに毛糸の帽子を脱いだ。私は薬をてのひらに受け、髪の毛の抜け落ちた頭皮にそっと塗っていった。手術跡が溝のように刻まれた叔母の頭はまるで桃のよう。私はそれを両のてのひらですっぽりと包み込む。

 

熱を帯びた淡いピンク色の頭皮。叔母が目を閉じたまま「冷たくて気持ちいい」とつぶやいた。私は桃の皮に傷をつけないよういっそう丁寧に、ゆっくりと手を動かした。この果実が決して枝から落ちませんように、そう願いながら。