心はポルトガルの島々へ

左端がマデイラワイン、その横が61年バローロ。
左端がマデイラワイン、その横が61年バローロ。

昨日に引き続き、今日も今年の最も貴重な一日となった。今夜はワイン会。「クッキン」の小川さんに声をかけていただいたのだ。私の生まれ年は、20世紀三大当たり年と言われた1961年で、今まで2回しかその年のワインを口にしたことがない。思い出深い1本は『グロリア』。これは、10年ほど前に小川さんが関わっていた「ボランジェの会」に私も参加していて、その定例会で出されたもの。美味しかった。仕事の都合で一足先に会場を出なければならない私に、小川さんは残りの瓶をくれた。大切に事務所まで持ち帰り、仕事をしながら澱まで飲んだ。澱までも、素敵な素敵な味がした。

 

11月のある日、「クッキン」でその思い出話をしていると、おもむろに小川さんがテーブルに持ってきたのが、61年のバローロ!「これを12月26日に開けます。8人程度の小さなワイン会ですが、いらっしゃいませんか?」。手帳も見ずに、即OKした。

 

ワイン会では全部で9本を空けた。61年のバローロももちろん美味しかったが、私の中の最高金賞に輝いたのは、1875年のマデイラワインだ。緑の瓶に書かれた文字はところどころ剥げて、年代を感じさせる。風味もそのように充分こなれていて、たっぷりとした抱擁力があった。どこまでもやさしく、甘く、くどくなく、大げさに言えば、アフロディーテのような・・・って、どんな感じよ?

 

来年の6月頃、アゾレスに行こうと計画しているが、そのコースにマデイラも組み込むことにしようと思う。かつてポルトガルを訪ねた折は、日程の関係もあり、またさほど知識を持ち合わせていなかったこともあって、アゾレスへ渡ることはしなかった。しかし先日、福岡の至宝の一人(と、思っている人は多いと思う)料理家の檜山タミさんを取材したときに、檜山先生が「いろんなところを旅したけれど、また行きたいところはアゾレス。だって美味しいんだもの」とおっしゃった。そして今夜の極上マデイラ。であれば、ポルトガルの島々を訪ねないわけにはいかない。

 

帰り際、小川さんはマデイラを注いだ空のワイングラスにラップをかけ、持たせてくれた。「2〜3日は香りを楽しめますよ」。多分私は、年内はこの香りに酔い続けるだろう。ラップの端を少しめくっては鼻先を突っ込んでクンクン。その姿はアフロディーテではなく、メドゥーサさながらではある。