京都の老舗。

「開化堂」の新バージョン茶筒。携帯用や珈琲豆対応型もある。
「開化堂」の新バージョン茶筒。携帯用や珈琲豆対応型もある。

新幹線が駅に滑り込んだとき、京都の町には雪が降り始めていた。東京は暖かな薄曇りだったのに、ぐっと冷え込む。駅のホテルにチェックインすると、すぐに私は外へ出た。目指すは茶筒の老舗『開化堂』。3月の企画『育つ器展』に出品していただく商品内容の打ち合わせのためだ。以前一度訪ねた折の記憶では、駅からさほど遠くなかったはず。ボタン雪に包まれた京都の町は美しく、私は歩くことにした。雪に煙る東本願寺や連なる町家に風情を感じながら、想像以上に長い道のりを飽きることなく歩き続けられたのは、まさに京都マジック。他の土地なら、きっとすぐにタクシーに乗っていた。

 

すっかり濡れた姿で『開化堂』に着くと、八木さんご一家が丁寧に迎えてくださった。ヨーロッパでの発表会を終えて帰国したばかりのご家族は、いつにも増してお忙しくお疲れだろうと思うと、訪ねておきながら私は恐縮してしまった。

 

ギャラリーでお茶をいただきながら(これがまた美味!)、最近のものづくりの話など伺っていると、巷でささやかれている“海外における日本ブーム”という事象が本当なんだなぁと思えてくる。もちろんそれは、確かな技術に裏打ちされた日本美を感じさせるものに限られているとは思うが、多用なニーズに応えるべく、『開化堂』のような老舗ですら絶えず新しい商品の形を模索しているのだという現実にも感心させられた。『育つ器展』では、スタンダードな茶筒に加え、パリやフランクフルトでも好評を博したニュースタイルの茶筒も並ぶ予定なので、楽しみにしてほしい。

 

翌日、老舗の桶屋『たる源』へ。冷え冷えとした町家の奥で、一人川尻さんは黙々と手を動かしていた。声をかけるのが憚られたが、思い切って挨拶をする。3度目で川尻さんは私に気づき、仕事の手を休めると、気さくにあれこれ話をしてくださった。事前調査では工房には商品はなく、すべて受注生産だが、注文から完成まで長い時間がかかる人気店と聞いていた。しかしラッキーにも、完成したばかりの商品が5つほどあった。

 

吉野杉で出来た小ぶりの酒杯を手にとって値段を伺うと、予習していたとおりの金額が返ってきた。しかし、まさか買えるとは思っていなかった私に持ち合わせはない。後日送金するので杯を取り置いて欲しいとお願いすると、なんと川尻さんは、ササッと杯を包み始めた。「そんなの面倒だからいいよ、持って帰って。お金は振り込んでくれればいいから」。その素振りは、京都の人と言うよりも江戸っ子。我々は初対面なのに!驚いた。京都の人は言葉と心は裏腹だと聞くが、本当にいただいていいのだろうか・・・。瞬時の葛藤の後、私は有り難く杯を受け取ると、バッグの中に大事にしまい込み、ぬくぬくした気持ちで大阪へ向かった。