チュニジアのストール

マハティアの港
マハティアの港

昨日、出かけるときに首に巻いたシルクのショール。玄関を出ると予想外の湿った暖かさに、あわててはずした。アースカラーが何本も走る細いストライプが春の野辺のリズムを刻んでいて、3〜4月のファッションには重宝している一枚。長めのフリンジも気に入っている。けれど、もう初夏。来年までお休みだ。


このショールは3年ほど前にチュニジアを旅したとき、マハティアという小さな海辺の町で買った。ブルーに塗られた家並みが美しいその町では、辻のあちこちで織機の音が響いていた。バッタンバッタンギシッ・・・重いけれど勢いのある音。日本の染織で栄えた地方を取材する度に、「昔は1家に1台織機があって、機を織る音が町中に響いていたものです」という言葉をよく聞くが、どの地域も今やその面影はない。まさかアフリカの海辺でそのような光景に出合えるとは思っていなかった。


今年初めにチュニジアでジャスミン革命が起きたとき、なんだか意外な気がした。アフリカ諸国の中でもチュニジアやエジプトなどのイスラム圏は、比較的安定した地域だと思いこんでいたからだ。実際に都市部は高層ビルが建ち、ハイウエイが走り、物はあふれている。車窓からは、赤い大地に果てしなく続くオリーブ畑が見えた。地方では、小さな乗り合いタクシーやおんぼろバスが旅行者の足となるが、それもよくできたシステムで、危険や不便さは感じなかった。遺跡が中心の観光名所は比較的整備されており、レストランやショッピングモールは自由闊達な雰囲気に包まれていた。極端な貧しさや不穏な空気は感じられなかったのだが。


あれよあれよと言う間にその熱は周辺国に飛び火し、中東のアラブ社会に政変の嵐が吹き荒れている。世界の価値観は、大きく変わりつつある。「僕のストールはフランスへ行くんだよ」と誇らしげに話していた職人は、その渦中で、今も美しい布を織っているのだろうか。